1.原則、遺産分割協議は法定単純承認にあたる
被相続人から相続した財産を処分した場合、法定単純承認にあたるため、相続放棄ができなくなります。
たとえば、
◆預貯金の解約、払い戻し
◆財産(自宅など)の売却
◆被相続人が有していた金銭債権の取り立てを行い、費消した
◆相続財産を破棄、物理的に破壊
◆金銭的価値の認められる形見分け(一般的にみて高価なもの)
など、相続を承認するような行為です。
では、相続人が遺産分割協議を行うことは。
協議したに過ぎなければ、処分とは言えないのではないか、と思うところですが、遺産分割協議を行うことは財産の処分行為にあたり法定単純承認となります。
したがって、基本的に相続放棄ができなくなります。
遺産分割で相続財産をどのようにするか決める。文字どおり遺産を分割しており、もはや相続を承認しているにほかならない、とみます。
しかし、遺産分割協議後に想定外の多額の借金が判明した場合まで、遺産分割をした、相続財産を処分した、といって相続放棄できないのでしょうか。
2.遺産分割協議後でも相続放棄ができる余地はある
被相続人に多額の債務があることを知らずに、遺産分割協議を行った。
ありそうな話ではありますが、遺産分割協議が錯誤により無効となる場合もある、とした裁判例があります。
つまり、遺産分割協議をした後であっても、相続放棄が認められる場合があるということです。
この事案は、遺産分割協議をした後に、被相続人の多額の借金(数千万円)が判明したため、家庭裁判所に相続放棄の申述をしたところ、遺産分割協議がされていることを理由に相続放棄の申述が却下されたものです。
なお、この相続放棄の申述をした相続人は遺産分割協議で何も遺産を取得していません。
このような場合で、大阪高裁平成10年2月9日決定は、
「相続人が3か月内に相続放棄の申述をしなかったのは、被相続人に債務がないと誤信していたためで、その誤信に相当な理由があれば、その後の遺産分割協議は、要素の錯誤により無効となり、よって法定単純承認の効果も発生しない余地がある」
としました。
つまり、相続放棄の申述期間である3か月内のうちに、相続放棄をしないで遺産分割協議をしたのは、被相続人の遺産がプラスの財産しかないと誤信、誤って認識したためで、その誤信に相当な理由があれば例外的に遺産分割協議を行ったとしても、法定単純承認にあたらない場合もある、との判断です。
この「相当な理由」の判断基準としては、被相続人との生活状況、他の相続人との遺産分割協議内容のいかんによって、総合的に考慮して判断されます。
もっとも、このような裁判例があるからといって、必ずしも遺産分割協議をした後でも相続放棄ができる、というものではないため注意を要します。
3.まとめ
遺産分割協議をした後に多額の借金が判明する。
なにも珍しいことではありません。
原則は法定単純承認にあたり、相続放棄ができなくなります。
しかし、当初から相続財産はプラスの財産しかないと誤信して遺産分割協議をした場合、様々な事情や背景を検討し、その結果、場合によっては相続放棄ができる余地もあります。
遺産分割協議後に相続放棄をしたい、といったことであれば、まずは専門家に相談することをオススメします。