相談事例
夫が先月亡くなりましたが、夫は生前、多額の借金を抱えていたため、この度、相続放棄をしました。
そのような中で先日、電気代の請求がきました。
契約者は夫であり、したがってこれは夫の債務といえるので相続放棄により支払いをする必要はない、と考えますがいかがでしょうか。
1.相続放棄をしても公共料金は支払う必要がある?
債務を相続したくなければ相続放棄をする必要があります。
ところが、実は配偶者については相続放棄をしたとしても一切の支払い義務が免除されるわけではありません。
なぜなら、配偶者は「日常の家事に関して生じた債務は連帯して負担する」ことが民法761条に規定されているからです。
どういうことかというと、たとえ夫名義で契約したものであっても、その契約内容が日常の家事債務にあたる場合は、契約者ではない妻も連帯して支払い債務を負うということです。
2.夫婦の日常家事債務とは
では、何が夫婦の日常の家事債務にあたるのか。
一般的には以下のものがあげられます。
◆電気代やガス代、水道代などの公共料金
◆生活必需品の購入代金
◆教育上かかった費用
◆医療費
これらは基本的に契約者、契約の主体が夫であっても、妻も連帯して支払い義務を負います。
したがって、夫の相続放棄をしても、すべての支払い義務を免除されるわけではないため、相談事例では妻は電気代を支払う必要があります。
注意すべきは、妻はすでに相続放棄しているため、相続財産から支出することはできません。
支払いにあたり自らの財産から支出する必要があります。
相続財産から支出してしまうと、他の相続人から返還請求を受けてしまい、トラブルの元にもなります。
公共料金は金額的にそこまで多額ではないでしょうが、医療費は場合によっては高額になることもありますので、思わぬ請求がきて慌てないようにすることです
ちなみに、相続放棄をすると高額医療費の還付金を受け取ることができなくなります。
3.夫婦関係が破綻している場合
夫婦ではあるが長年別居していて、夫婦関係が破綻、生計も異にしていれば、それはもはや「日常の家事」ということが想定できないため、夫婦間であっても連帯して債務を負担することを否定した裁判例もあります。
したがって、そのような状態に至っていれば配偶者は支払う必要がない、と判断される可能性がありません。
ただし、「そのような状態であり、当然支払い義務はない」ことを証明する必要があります。
4.まとめ
何が夫婦の日常の家事にあたるのかは、夫婦の関係性、収入、資産規模、住んでいる地域の慣習などによって変わってきますので、個々の事情によって判断されます。
実質的に夫婦共同生活の維持に必要かどうかで判断します。
上述であげた家事債務は、どの家庭においても当てはまるものでしょうからご参考ください。
相続放棄をした後に何かの督促、請求がくることがありますが、支払う必要があるのかどうか判断に迷うこともありますので、その際は専門家に相談することをオススメします。