相続放棄をする念書、誓約書は有効か?生前の相続放棄は?

相談事例

父は難病を患い、3年ほど前に、医師より余命半年との診断を受けました。

父は、半年という短い余命宣告を受けた後も、長く生きてくれましたが、先日亡くなりました。

父の財産としては自宅と、預貯金、株式があります。

母はすでに他界しており、相続人は長女の私と、次女の妹、長男の弟の3名です。

弟は、ろくに定職に就かず、闘病中も父の見舞いに訪れることがありませんでした。

私と妹は、このような弟に相続財産を渡してしまうとさらに働かなくなり、それは本人のためにはならず、また、相続したとしても、あっという間に相続財産を使い果たしてしまうのではないかと考え、できることなら弟には相続してほしくないと日ごろから話し合っていました。

そこで、ダメもとで弟に、父の生存中に相続放棄をしてほしいと頼んだところ、予想外に了承してくれました。

また、口約束では後でそんなことは知らないと言われる可能性もあるため、相続放棄の念書を書いてもらいました。

先日父が亡くなったと言いましたが、その後、弟から連絡があり、「自分には相続する権利がある」と主張してきました。

私と妹は、「相続放棄の念書があるため、相続する権利はないはず」と主張しましたが、私どもと弟の言い分はどちらが正しいのでしょうか・・・。

1.生前の相続放棄や生前に作られた相続放棄をする念書は認められない

相続放棄は、家庭裁判所に申立て、そこで審理される必要があります。受理されると相続放棄により相続人の一切の権利や義務を相続しません。

そして、自分が相続人とならないよう、被相続人の生前に相続放棄ができるかどうかですが、相続放棄をすることは認められません。

これは、被相続人や他の相続人からの心理的圧迫による相続放棄や、他の相続人から相続放棄の強制を避けるためです。

また、たとえ放棄する本人自身が、特に誰かに強制されたわけでもなく、相続を放棄する意思が明確であったとしても同様に認められません。

相談事例のように、生前に相続放棄の念書をもらっていても、生前に相続放棄自体ができないため、そのようなものは無効です。

したがって、弟さんの言い分が通ります。

2.相続開始「後」に書かれた相続放棄をする念書は有効か

相続放棄の念書は、被相続人の生前に作成されたものは疑いの余地なく無効となりますが、相続開始後に作成された場合はどうでしょうか。

生前に作成された相続放棄の念書には何の法的効力もありません。当然に無効です。

一方で、念書が相続開始後に作成されたとしても、それは法律上、相続放棄と扱われることはありません。

これも前述のとおり、相続放棄は家庭裁判所に申立てる必要があるため、相続人間でそのような取り決め、話し合いに過ぎない場合には、法的には相続放棄としての効力は認められません。

3.相続分の放棄と判断する余地もある

もっとも、相続開始後にそのような念書が作成されたとした場合、それは「相続分の放棄」(もしくは相続分の譲渡)として判断する余地はあります。

ただ、念書を書いた相続人に、その念書が相続分の放棄としての意図がなく、それは無効であると主張された場合、その念書は無効となる可能性も当然ながらあります。

また、遺産分割協議の中でそのようなものが作成されたとすると、それはいわゆる「遺産放棄」の意味合い、意図として判断される場合もあります。詳しくは<相続放棄と遺産放棄の違い>

4.遺留分の放棄の念書は?

遺留分とは兄弟姉妹以外の相続人に、最低限保証されている相続分です。

では、被相続人の生前に書かれた「遺留分を放棄する念書」は有効になるのでしょうか。

それとも、相続放棄と同様に無効となるのでしょうか。

被相続人の生前に書かれた遺留分を放棄する念書も相続放棄と同様に無効となります。

遺留分の放棄自体は相続開始前であっても可能ですが、その場合、家庭裁判所に申立て、許可を得る必要があります。詳しくは<遺留分の放棄とは?相続放棄との違いは?>

一方で、相続開始後に書かれた遺留分を放棄する念書は有効です。

相続開始後であれば、遺留分を放棄することは遺留分を有する相続人の自由であり、その方式は特に定められていませんので、念書という形で遺留分を放棄することは可能です。

また、「遺留分の放棄」としなくても、遺産分割協議で自己の遺留分より少ない取り分(場合によってはゼロ)で合意すれば、事実上、それは遺留分を放棄したことにもなります。

5.まとめ

被相続人の生前に、特定の相続人に相続放棄(もしくは遺留分の放棄)をする内容の念書を書いてもらっても、それは無効になります。

むしろ、そのようなことを要求すれば相続人間の不信を生み、争続になるおそれがあるため、無用の混乱を招くようなことはやめておくべきでしょう。

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