
相談事例
遺産相続について質問があります。
夫が先月亡くなりました。
相続人は妻の私と、長男と長女の3人です。
相続財産は自宅だけなのですが、子はすでに独立し、別居しているため、同居していた私が相続することになると。
しかし、夫に隠れた借金がある可能性もゼロではないため、子供たちには相続放棄をしてもらうことにしました。
そうすれば、相続人は私だけになりますし、もしも夫に借金があった場合にも、子供たちがその借金を背負うことがないようにと考えたからです。
ところが、子供たちの相続放棄が受理された後、書類を揃えて自宅の相続登記を自分で申請したのですが、しばらくして法務局から「相続人の全員が関与していない」「この書類だけではあなた単独名義ではの相続登記はできない」「申請を取り下げて欲しい」と連絡が入りました。
どういうことか分からず、困っています。
1.相続放棄すると、相続権は次順位者に移る
相談者は、遺産分割協議で合意できるけど、被相続人に隠れた借金がある場合のことを考え、遺産分割協議ではなく、子全員に相続放棄してもらって自分の単独名義にしようとした、ということです。
ここで、つい忘れがちになりやすいところですが、子が全員相続放棄したからといって、当然に妻が全部を相続できるわけではありません。
子は相続権第1順位者ですが、その子が全員、相続放棄したことによって、第1順位の相続人がいなくなり、その結果、相続権は第2順位(第2順位がいなければ第3順位に)に移っていくからです。
したがって、第2(もしくは第3)順位の相続人の書類(戸籍や印鑑証明書)を欠いているため、そのままでは妻単独での登記名義はできません。
妻は、子が相続放棄すれば自分だけが相続人となる、と大きな勘違いをしたことになります。
一旦、登記申請を取り下げる形となるでしょう。
取下げ後、不足書類を集めていき、あらためて登記申請することになりますが、そのためには次順位相続人と遺産分割で合意する必要があります。
2.相続放棄の撤回は?
子の相続放棄を撤回し、はじめから相続放棄をしていなかったことにしよう、としても相続放棄の撤回、取消しは原則認められません。
詳しくは<やっぱりやめたい!相続放棄の撤回、取消しはできる?>
相談事例のような理由で子が相続放棄した場合、相続放棄の撤回が認めらる可能性は低いでしょう。
配偶者は次順位者と遺産分割をする必要があります。
3.まとめ
配偶者は常に相続人です。配偶者に順位、はありません。
相続権の順位があるのは、①直系卑属、②直系尊属、③兄弟姉妹です。
したがって、第1順位者の相続放棄により、配偶者がいたとしても次順位者に相続権が移ります。
配偶者とともに次順位者が相続人となるのです。
ここの認識がすっぽり抜けていると、相談事例のように取り返しのつかない、まったく想定外の結果になってしまうこともあるので、事例のような理由で相続放棄を考えている場合は、事前に専門家に相談することをオススメします。