相談事例
この度、父が亡くなりました。
母は数年前に他界しているので、父の相続人は長女の私と、長男の兄の2名です。
私は婚姻により、父の戸籍から出ています。
兄が、「お前は嫁に出ているため、実家を相続する権利はない」と主張しています。
兄の言うように、父の戸籍から出ていると相続人にはなれないのでしょうか。
1.遺言がなければ法定相続
被相続人が遺言を残していなければ、相続財産は法定相続人が法定相続分の割合にしたがって相続することになります。
法定相続分とは異なる内容で相続したい場合は、遺産分割をする必要がありますが、相続人全員の合意が前提です。
相続人全員の合意があればその割合や相続する者は自由に決めることができます。
特定の相続人が100%相続することもできます。
2.実家の戸籍から出ていても相続人
前述のとおり、法定相続人ははじめから決まっています。
他の相続人が、「相続人ではない」と一方的に主張し、それが認められることは一切ありません。
それは、婚姻により家を出て嫁いだ場合であっても、です。
相続人であるかどうかは被相続人と同じ戸籍に入っていることは要件ではなく、また、被相続人と同一の姓である必要もありません。
したがって、相談事例での兄からの「戸籍から出ているから相続権はない」との主張はまったく認められません。
「相続権がない」のと同じ効果を求めるのであれば、あくまで自分の意思で遺産分割において遺産を取得しない「遺産放棄」をするか、「相続放棄」をする必要があります。
なお、婚姻により実家を出た場合でも、相手方の家の戸籍に入るわけではなく、あらたに夫婦の戸籍が編製されます。
3.養子にいった場合は
同じように戸籍から出ていくものとして、婚姻のほかには養子縁組があります。
養子により他家にいったあとであっても、実の親子関係は継続するため、実親を相続する権利はあります(ただし、特別養子縁組は除く)。
したがって、養子は実親、養親の双方を相続することができます。
4.まとめ
「他家に嫁いだから(養子に出たから)相続権はない」
このような誤解がまったくないわけではありません。
婚姻や養子縁組によってイメージ的に「よその家」といった感覚になりやすいのではないでしょうか。
それが相続権がない、につながる。
ただ、前述のとおり、家を出た(戸籍から出た)からといって、それを原因として相続権を失うことは一切ありません。
「長男が全て相続するのが当たり前」
「自分は嫁いでしまったから相続しない方がよい」
といったこともまったくありません。
他の相続人が、嫁いだことを理由として相続権を否定してきた場合は、毅然とした態度で明確に否定することです。