1.法定相続情報証明制度とは
不動産や預貯金口座、株式等の相続手続きには被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本が必要になり、手続きに際してはその戸籍謄本を金融機関や法務局など各窓口に提出します。
基本的に数通程度で出生から死亡までの戸籍一式が揃いますが、なかには十通以上に及ぶ場合もあります。
その結果、たとえば銀行口座が5つあった場合はその都度、各銀行に戸籍の束を持参して提出する必要があり、相続人、関係窓口の多大なコスト、時間の浪費となっていました。
そこで、そのような不都合を回避するために、2017年5月29日から「法定相続情報証明制度」が始まりました。
2.手続きの流れ
この制度の手続きの流れとしては次のとおりになります。
①戸籍など公的書類の収集
(ⅰ)被相続人の出生から死亡までの戸籍
(ⅱ)相続人全員の戸籍
(ⅲ)被相続人の住民票の除票(保存期間満了などで取れない場合は戸籍の附票でも可)
②申出書と法定相続情報一覧図(家系図のようなもの)の作成
③法務局に申出書、一覧図、取得した戸籍謄本一式や住民票などを提出
登記官が提出された戸籍などをチェックして、法定相続情報一覧図が間違いなく、戸籍の記載のとおりに記されていれば、その法定相続情報一覧図に法務局の認証印を押して発行してくれます。
つまり、一覧図1枚(相続人多数などでは2枚以上)だけで、戸籍の束と同じ効力をもった書面となります。
メリット
この制度のメリットとしては、主には以下のものがあります。
◆法定相続情報一覧図があれば、戸籍謄本の束を金融機関ごとに毎回持参して提出する必要がなくなる
戸籍は集まると結構かさばり、なかなかの重さになります。それが紙1枚でまかなえることになるため、手続きに際してかなりの負担軽減になります。
◆何通でも無料で発行してくれる
法務局に申請すれば何通でも無料で取得できます
◆不動産や預貯金、有価証券などの相続手続きを同時並行で進めることができる
戸籍の場合、手続きの同時並行を念頭に何通も取得すると、費用がその分、何倍もかかってきますし、量も相当なものになります。
何通も取得しないにしても、1つの手続きが終わる度に戸籍の原本を還付(返却)してもらい、次の手続きに移るといったことを繰り返すことになります。
必然、手間や時間がかかります。
しかし、法定相続情報一覧図は前述のとおり無料で何通でも取得できますので、コスト面は当然ですが、不動産が各地ばらばらにある場合や、銀行口座が多数ある場合は、それらの手続きを同時並行で進めることができます。
「手続き完了」「原本還付」「次の手続きに移る」といったことを繰り返す必要がないのです。
大幅に時間短縮、費用節約ができ、速やかに手続きを完了できます。
ただし、戸籍以外の書類、たとえば遺言書や遺産分割協議書などそれ1通しかないようなものがあれば同時並行での手続きは当然できません。
◆金融機関側としては提出された戸籍を一からチェックしたりコピーを取ったりする必要がなくなる
一覧図があるということは、すでに相続関係は法務局でチェック済みということなので、あらためて金融機関側で戸籍をチェックして相続関係を確認する必要がありません。
大幅に、想像以上に時間短縮ができます。今までに比べても格段に相続手続きを円滑に進めることができます。
デメリット
この制度、メリットもあれば以下のようなデメリットもあります。
◆戸籍を取得する手間は残る
残念ながら最も労力、時間を使うであろう戸籍を取得する手間からは逃れられません。
ただ、戸籍の取得はいずれにしても必要になるため、デメリットとは捉える必要はないかもしれません。
◆あくまで戸籍謄本のみの情報から作成される
一覧図は戸籍の記載事項をもとに作成されます。
たとえば、相続放棄の事実は戸籍からは読み取ることができないため(戸籍上は放棄後も依然として相続人として記載されている)、相続放棄者も一覧図に記載する必要があることや、相続人間で遺産分割協議を行っていてもその内容は反映されません。
つまり、一覧図にはすべての者が相続人として記載されます。
なお、相続廃除についてはその事実が戸籍に記載されますので、廃除された者は相続人として一覧図には記載されません。
◆1人の被相続人の相続関係しか記載できない
たとえば、父親の死亡後に母親が死亡した場合のような「数次相続」が発生している場合、1次相続(父親死亡についての相続)、2次相続(母親死亡についての相続)を1枚の一覧図にまとめて記載することはできず、被相続人ごとに分けて一覧図を作成する必要があります。
◆申出の手間がかかる
戸籍の収集の手間とは別に、申出書と一覧図を作成して法務局に申出する必要があるため、その分の手間が加わります。
法務局での調査には、管轄法務局により異なりますが、通常は2週間ほどかかります。
3.まとめ
以上のようなメリット、デメリットがあります。
不動産や銀行、証券会社など、相続手続き先が何か所もある場合はメリットのほうが大きいため、この制度を利用することをオススメします。