1.信託不動産の登記義務
家族信託においては、何を信託財産(託す財産)にするか自由に選択できます(信託財産に適しない、もしくは法令上困難なものもあります)。
実務上、金銭に並んで代表的な信託財産は不動産ではないでしょうか。
金銭を信託財産とする場合、委託者口座から受託者口座に契約書に定められた金額を振り込めば問題ありません。
では、不動産を信託財産とする場合。
信託契約書作成後、速やかに「所有権移転および信託登記」をする必要があります。
なぜなら、信託法上、受託者は分別管理義務を負っているからです。
この分別管理義務をもとに、不動産であれば「信託登記をする義務」があるのです。
この登記義務は信託契約において、登記をしなくてもよい、などとすることはできません。
では、「その義務である信託登記をすればあとは何も手続きがいらないのか」というと、当然ながらそういうことはありません。
信託不動産について、信託登記以外に受託者がやっておくべきこと。
以下、解説していきます。
2.自宅を信託財産とした場合
自宅を信託したのであれば、信託登記後の手続きとしては、火災保険をはじめとした各種契約の見直しが必要になります。
基本的に受託者の名で契約をし直すことにはなりますが、保険会社によっては特に手続きが不要となるケースもありますので、保険会社または代理店に確認をすることです。
ただし、契約変更しなくてもよい(保険契約者が委託者のままでもよい)場合であっても、注意すべき点があります。
保険事故が発生し、いざ保険金を請求する場合において「保険金の請求自体は委託者にしか認められない」とすると、問題が出てくる可能性があります。
それは、委託者が認知症などで判断能力を失っている場合です。
信託しても保険契約の内容そのものは変更しなくてもよいが、一方で保険金は委託者からしか請求できない、となると、保険金請求のために成年後見人を選任しなければならず、手間も時間も費用もかかってしまいます。
せっかく家族信託をしたのに・・・、といったことにもなりかねません。
したがって、保険契約のやり直しが不要の場合であっても、受託者の方で保険金を請求し、かつ、受け取ることができるかの確認は必須になります。
「保険金は出るけど請求して受け取ることができない」といった事態にならないよう要注意です。
3.賃貸物件を信託財産とした場合
信託した財産が賃貸物件の場合。
不動産管理会社に賃貸物件の管理を任せていることが多いのではないでしょうか。
したがって、賃貸物件を信託したのであれば受託者と不動産管理会社とで管理委託契約を締結し直す必要があります。
あわせて、賃料振込先口座を受託者の信託口座にすることも必要になるため、前もって信託口(信託専用)口座を開設しておき、「賃料振込先口座の変更手続き」も行います。
また、火災保険をはじめとした各種契約の見直しが必要になるのは自宅不動産の場合と同様です。
その際の注意点(見直し不要の場合であっても、ちゃんと受託者が請求し、受け取れるのかどうか)も同様なので、必ず保険会社や代理店に確認しておきましょう。
なお、不動産管理会社を入れていないのであれば、各賃借人への通知(オーナーが変わった、振込先が変わった)は忘れずに行っておくことです。
通知書にくわえて、信託登記後の登記簿謄本のコピーの提供もしておくべきでしょう。
4.まとめ
不動産を信託した場合、信託契約書作成後に所有権移転および信託登記を行う必要があります。
その後の手続きについては、信託不動産が自宅か賃貸物件かで若干異なってきますので、受託者としては速やかに、かつ、適切な対応が必要になってきます。
特に、各種保険契約の対応はしっかりと行っておくことです。
適切な対応を取っていなかったばかりに損害が発生したとなれば、受託者としての責任を問われる事態にもなりますので、専門家に相談しながら進めることをオススメします。