施設入所契約はできる?家族信託の受託者は成年後見人と同じか?

相談事例

私は3年ほど前に父と信託契約を結び、受託者となって信託された財産を管理しているのですが、最近、父が認知症と診断されました。

父は独居なので、何かあってからでは遅いと思いホームへの入所を考えています。

私は受託者となっているので、父のために施設入所契約などをすることは可能でしょうか。

少なくない金額を信託財産として預かっており、そこから施設費を支払う予定なので受託者の権限として施設入所契約をすることができると思いますがいかがでしょうか。

1.受託者は何でもできる?

家族信託のご相談が増えてきた印象がありますが、家族信託制度について勘違いをされているところがあり、その1つとして相談事例のようなケースがあげられます。

家族信託は委託者と受託者の契約で行われることが一般的です。そして、受託者は委託者から財産を託され、信託契約にしたがって管理運用、場合によっては処分もすることができます。

受託者は信託契約次第ではありますが、通常は広い権限を持っているので、成年後見人のような役割もできるのではないか、と思うところです。

しかし、受託者という立場はあくまで信託の中でだけの話です。

一方、成年後見人は、法律上の代理人、「法定代理人」として本人を代理します。

たとえば、成年後見人は以下のような行為ができます。

・悪徳商法にだまされた場合、その契約の取消

・本人が相続人となっている遺産分割に参加し、本人に代わって調印

・不動産、預貯金口座などの財産を管理

・身上保護権があるので、介護サービス契約や病院、施設の入退院(所)手続き・契約

 

以上のように、成年後見人は受託者のように財産管理権も有していますが、成年後見人は家庭裁判所の審判を得て選任された者で、あくまで私人間の契約である信託契約とはまったく関係のないものです。

当然ながら受託者の財産管理権と成年後見人の財産管理権もイコールではありません(受託者の仕事内容は信託契約にしたがうので、契約次第では成年後見人に比べてより一層、柔軟な管理権を設定することが可能)。

どちらも財産管理権があるので受託者となれば成年後見人と同じような働きができる、と誤解しやすいところですが、相談事例のように受託者だからといって施設入所契約まですることはできません。

2.家族の立場としてできることも

上述のとおり家族信託の受託者は身上保護権までは有していないので、施設入所契約などをすることはできません。

もっとも、事実上は家族としての立場で入院手続きなどを行うことができる場合もあります。

たとえば、子が受託者となっており、親である委託者が施設に入所することになったが、判断能力が低下しているので契約ができない。その場合、子は受託者の行為として行うのではなく、家族としての立場で契約を行うことがあります。

ただ、施設によっては契約は法律上の代理人である成年後見人でなければならない方針のところも増えてきています。

3.受託者と成年後見人は兼任できる?

受託者となってしばらくして委託者が認知症になり、その委託者に成年後見人を選任する必要が生じたとします。何度も言いますが、受託者には身上保護権がないので、受託者だとしてもできないことは数多くあります。

そこで、受託者になっている者がそのまま成年後見人の候補者として手を挙げることができるのかどうか。

本人の財産を当然把握しているでしょうし、身近な家族であればそのまま成年後見人にもなった方が都合がいいと思うのは自然かもしれませんが、そこは慎重に考える必要があります。

成年後見人は委託者の法定代理人として、受託者を監督する立場にもなり得ます。

しかし、その成年後見人が受託者でもあると、監督する者と監督される者が同一人となってしまい適正な監督が期待できない、といえます。

だれを成年後見人とするかは家庭裁判所が判断しますが、利益が相反する関係が想定される中においては、候補者となること自体、慎重になった方が無難でしょう。

 

任意後見人と受託者との兼任について詳しくは<家族信託と任意後見、併用はできる?受託者と任意後見人を兼任は?>をご覧ください。

4.まとめ

受託者になったからといって、成年後見人と同じようなことができるというわけではありません。両者は全く別の制度で、なんら関連性はありません。

財産管理にとどまらず、将来、認知症などになった場合を見据えて施設入所契約などの身上保護も目的とするのであれば、家族信託に加えて成年後見制度についても検討する必要があります。

ただし、別の制度だといっても両者を兼任することは利益相反のおそれもあるので控えるべきでしょう。

どのような選択肢があるのか、その中で最善な方法は何か、など詳細は専門家に相談することをオススメします。

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